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中国カシュガル 存在しないはずの男

2021年05月26日

 中国・新疆ウイグル自治区カシュガルを歩いていると携帯電話がブルブルと震え、自治区幹部が記者会見を開いたというニュースを伝えた。少数民族への人権侵害が批判される自治区内で「当局者が外国人記者を尾行して取材を妨げているのでは」と問われ、「そういう状況は存在しない」と否定したという。

 思わず後ろを振り向いた。まさに尾行されていたからだ。「あなたの仕事は存在しないと言っているよ」。携帯電話の画面を見せながら男に話し掛けたが、口を開かない。「警察官なの?」「仕事楽しい?」「お昼食べた?」。いろいろ聞いても男はやはり無言。結局、言葉を発したのは2回だけ。男の写真を撮ろうとした際には「撮るな」。近くに公衆トイレがないか尋ねると「知らない」。

 その日は朝から夜まで計10人前後が交代しながら尾行してきた。郊外では1人、街中では2~3人が至近距離でついてくる。地元の人に話し掛けるとすかさず割って入って妨害し、昼食の時もはす向かいのテーブルに座った。自治区幹部は記者会見で新疆での人権侵害も全否定した。だが、その言葉を信じることは難しい。 (中沢穣)