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テヘラン 彼女は白票を投じた

2021年07月21日

 イラン大統領選の取材で、6月中旬にテヘラン入りした。そのとき通訳に付いてくれたのが、英会話講師のアティさん(32)。彼女の明るい性格は、忙しい中で私をほっとさせてくれたり、笑わせてくれたり。数日間の取材を熱心に手伝ってくれた。

 今回取材したのは候補者のほか、改革派や保守強硬派の議員、米国の経済制裁による経済悪化で苦しむバザール商人や市民などさまざま。選挙や外交問題への考え方も異なり、いろんな意見に触れることができた。

 そして迎えた選挙当日。投票所のモスクを回って有権者の話を聞いていると、1人の大学生が白票を投じたと答えた。「好きな候補はいないけど、この国が好きだから白票を投じた」。30人以上から話を聞いたが、白票は彼女だけだった。

 投票締め切りまで6時間。アティさんがひと言、「私は白票にする」。投票に行こうか、ずっと迷っていたという。取材を通じて多様な意見を聞き、国のことを考えるようになった。好きな候補はいない、でもこの国が好き。その思いを投じたくなったという。翌日、白票には「この国を愛している」と書いたと教えてくれた。 (蜘手美鶴)