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ロンドン 紙飛行機舞うピッチ

2021年10月19日

 背筋に冷たいものが走った。9月上旬、英ロンドンのウェンブリー競技場で、サッカー・イングランド代表の試合を観戦した時だ。周りの観客は大半が大柄な男性たち。試合が始まるとピッチを凝視しつつ、たばこに火を付けていく。もちろん、スタンドは禁煙だった。

 イングランドのサッカーファンは熱狂ぶりと、荒くれ者の多さで知られる。彼らの応援を見たくて、熱心なファンが集うゴール裏近くに座席を確保した。

 野太い声で選手を鼓舞し、シュートが外れると一斉に頭を抱える。持ち込み禁止のビール瓶でらっぱ飲みする人も少なくない。試合は格下の相手を圧倒できない時間帯が続き、周囲からは「つまらねえ」「あいつを試合に出すな」などの怒声が。スタンドに充満するいら立ちに不安を感じた時、なぜか紙飛行機が目の前をよぎった。

 見回すと、あちこちからピッチに向けて投げられ、届くと歓声が湧く。「退屈だ」との意思表示だ。そんな無言の圧力からか、イングランド代表は調子を上げ、紙飛行機を折っていた男性らは温和な表情に。熱心な応援に戻った姿に、安堵(あんど)とおかしさが込み上げた。 (藤沢有哉)