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英ポーツマス 沸く軍港 浮かぶ記憶

2022年03月17日

 甲板の上に、1列にビシッと並んだ乗組員の姿が見えた。岸壁には「お帰りなさい」の横断幕と、ちぎれんばかりに手を振って出迎える家族や市民ら。お互いに大切な人の姿を探しながら、さぞかし誇らしくほっとしている瞬間だろうなと思えた。

 英南部ポーツマスで先月、空母クイーン・エリザベスの帰港を取材した。日本を含む約40カ国を巡る7カ月の任務を終えインド太平洋地域を重視する英国の新たな外交姿勢を示した。

 ポーツマスは英海軍の栄光の歴史が刻まれた港だ。岸壁には100年戦争でフランス艦隊から何度も攻撃を受けた際に築かれ、その後石造で強化されて各国の侵攻を防いできた要塞(ようさい)が今も残る。その中に集まった大勢の市民と一緒に空母を出迎えながら、昔連載で取材した海上自衛隊員のことをふと思い出した。

 彼は湾岸戦争後のペルシャ湾掃海艇派遣と、アフガニスタン戦争時のインド洋の補給艦派遣の2つの任務を経験していた。母港に帰ると抗議の嵐で、いつも艦上から「お疲れさま」の文字を探すが、見つけたことは1度もないと言っていた。あれから、彼の見る岸壁の光景は変わっただろうか。 (加藤美喜)