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モスクワ イチゴめでる春遠し

2022年08月10日

 イチゴは、スラブ系の国々で春の風物詩だ。モスクワ各所にも市が立つ。「冬が終わった」と皆が赤い輝きに色めき立つ。雪と曇天ばかりのモノトーンの世界にさようなら。

 ロシアの軍事作戦が続くウクライナでもイチゴが話題になった。密偵で各地に入ったロシア軍の工作員がウクライナ語でイチゴやパンなどの単語の区別と発音ができず、スパイと発覚した。

 イチゴはロシア語で「クルブニカ」、ウクライナ語では「ポルニツァ」。同じスラブ系言語でも単語は違う。ウクライナでロシア語を母語とする人は多いから、ロシア語だけで工作活動に不自由はない、と侮ってしまったか。

 でも現実はロシアの論理で収まるほど甘くない。ウクライナの人々は「ポルニツァ」とともに春を迎えてきた。

 流血と破壊が続く軍事作戦をロシアのプーチン大統領はこう評している。「ウクライナで起きていることは悲劇」

 御説ごもっとも。私だって想像だにしなかった。イチゴを見て悲しくなるロシアの春があるなんて。

 (小柳悠志)