【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 世界の街
  4. ヨーロッパ
  5. ロシア・フェラポントフ 故郷を憎む現実重く

ロシア・フェラポントフ 故郷を憎む現実重く

2023年03月08日

 「もう少し若ければ、おれも志願するのになあ。こんな体じゃなければなあ」と、タクシー運転手のサーシャさん(60)は言った。ロシア北西部ウォログダ州フェラポントフ。中世の修道院が残る田舎町だが、車内の話題はロシアのウクライナ侵攻だった。

 サーシャさんは右手の人さし指がない。左脚は義足。1980年代にアフガン侵攻、90年代はチェチェン紛争に参加したという。

 出身はウクライナ。だが心は完全にロシアのプーチン大統領に傾き「ウクライナは今や国名しか残っていない。おれの知る故郷は死んだ」と憤る。ロシアから離れ、欧米に接近するウクライナを許せないのだ。

 サーシャさんは2月の侵攻開始直前、ウクライナを車で訪れた。故郷で浴びたのは「ロシアは侵略国家」という言葉。サーシャさんの怒りは頂点に達した。話の途中、ウクライナ兵の死を喜ぶ様子も垣間見えた。

 ロシアでウクライナにルーツを持ち、ウクライナを憎む人は多いのだろう。ウクライナでもしかり。「兄弟殺し」のごとき現実が重い。私が出会う人の多くは善良なのに。 (小柳悠志)