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カイロ 戦争を忘れた2日間

2022年08月24日

 「友だちと話したら泣いてしまった」。深夜、そう言いながら彼女が部屋から出てきた。ウクライナからエジプト北東部に避難中の医師ビカさん(32)が先日、ビザ更新でカイロを訪れ、私の家に泊まっていった。涙の理由を尋ねると、友人の弟が戦死したという。電話越しに友人は泣き、ビカさんも泣いた。

 彼女と4月初旬に知り合って以来、折に触れてウクライナの話を聞かせてもらっている。ロシア占領下の街で暮らす友人の話、やけどの子どもの治療に明け暮れる医師仲間の話、検問所で男性がロシア兵に連行される話…。友人たちから聞いた話を、いつも詳細に語ってくれる。

 よく笑う明るい彼女だが、ふとした瞬間に表情がこわばるときがある。侵攻直後はストレスが原因で吐き続け、不眠に陥ったという。今も精神科医とテレビ電話で面談を続けている。

 彼女のカイロ滞在は2日間。ビザ申請の合間に一緒にご飯を食べたり、スーパーに行ったり。夕暮れにピラミッドを見に行ったときは、特に喜んでくれた。別れ際にひと言、「少しの間、戦争を忘れることができた」。私にとって何よりもうれしい言葉だった。 (蜘手美鶴)