2022年09月27日
30分待ちの行列の最後尾には、コーヒーの香りは届かない。それでも人々は海沿いの日差しに焼かれながら、ゆっくりと入店へ歩を進める。米北西部シアトル発祥の世界的チェーン「スターバックスコーヒー」の1号店を訪れた。
米国による文化グローバリズムの象徴として批判されることもあるが、列には人種も雑多な老若男女が並び、幅広い人気をうかがわせる。1号店のロゴは、おなじみの緑色とは違って茶色が主体。物珍しさから写真を撮ったりしているうちに、店のドアの前にたどり着いた。
「いつもこんな行列ですか」。案内の女性スタッフに尋ねると、「そうですね。夏が来たから近くの港に観光客船がとまるたび、どっとお客さんが来てくれます」。視線の先には、青く広がる太平洋があった。
思えば、チェーンの名前の由来は一等航海士スターバックが登場する作家メルビルの「白鯨」。大海でクジラと死闘を繰り広げる物語だ。ただ、米国で捕鯨船が活躍した時代は今や歴史のかなた。コーヒー片手に観光客が戻る客船を、かの航海士はちょっと不思議そうに眺めているかもしれない。 (杉藤貴浩)