【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 世界の街
  4. 韓国
  5. 韓国・甘浦 「敵産家屋」 芽生えた縁

韓国・甘浦 「敵産家屋」 芽生えた縁

2022年10月18日

 韓国で各地に残る日本統治時代の建物は「敵産家屋」とも呼ばれる。敵が建てた財産という意味。終戦後に日本人が引き揚げる際に現地住民に引き継がれたり、韓国政府が払い下げたりして使われてきた。

 近年はその独特の雰囲気を生かした店舗として活用する例が増えている。南東部の漁村・甘浦(カンポ)で写真家の崔善鎬(チェソンホ)さん(52)が営むカフェもその1つだ。

 「人が生きているにおい」に引かれて5年前に甘浦へ来た崔さんは、住民に「外から訪れる人を迎え入れる場になれば」と建物を提供された。

 店内は狭く数人しか座れないが、さまざまな客が訪れる。ソウルからたまに訪れるという年配の男性、旅の途中で立ち寄った大学生、果物を差し入れる地元の僧侶…。崔さんは手びきでコーヒー豆をひきながら客同士の会話に加わり、問われれば建物の来歴を説明する。

 「日本人だけでなく、解放後に住んだ人たちの希望や悲哀もこもった建物。積み重なった時間の重みがあります」。地域の記憶を伝えながら、ささやかな縁を結ぶ空間は「敵産」という言葉とは無縁に思えた。 (木下大資)