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ロシア・バイカリスク 「解放」語る 愛国少女

2022年12月07日

 ロシアのバイカル湖には周囲の1000の川から水が注ぎ込むが、湖の出口となる川は1つしかない−。こう得意そうに語るのが、シベリア鉄道で隣に乗り合わせたヤロスラワちゃん(12)だった。

 賢く、整然とした話し方。学校でも優等生に違いない。旅行中の私たち家族にロシアの魅力を教えたくてたまらない様子。イルクーツク州の湖岸の街バイカリスクから隣のブリャート共和国まで、列車の中で観光ガイド役を務めてくれた。

 「おじはウクライナを解放しているのよ」と、やおらヤロスラワちゃんが語り始め、私は血の気が引いた。「日本はロシアのやることに賛成してくれなくて残念だわ…。米国の対ロ制裁に追従するなんて」と恨みがましいことまで言う。彼女のおじはウクライナ侵攻に出ている将校だった。

 子ども相手に「解放なんてウソ。実態は侵略だ」と反論するわけにはいかなかった。周囲の大人たちは彼女に「正しい話」を聞かせているのだろうから。わが家の息子と折り紙を楽しむ彼女を眺めながら、侵攻が生んだ社会の傷口をまた1つ見た気がした。 (小柳悠志)