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ロンドン 豊かなはず…なのに

2023年04月21日

 この冬、英国で広がる「ウォームバンク」を取材した。エネルギー代の高騰や記録的なインフレの影響で、自宅で暖房費をまかなえない人たちのために、自治体や民間団体などが提供する暖かい場所のことだ。

 ロンドンの教会で出会った40代男性ルークさんは「寒くても、家では暖房は極力使わない。必死に働いても、家賃と食費を払うと何も残らない。まるで奴隷のような気分だ」と語った。年金生活の70代女性マルセラさんも「家にいると寒くてとても孤独になる。寝るときだけ使う1枚の電気毛布が宝物だ。毎晩寒さをしのげるたび、神様に感謝している」と話した。

 低所得者の多くが暖房のない冬を送っているといわれる一方、ロンドンの繁華街は連日、大量の買い物袋を提げた人々で混雑し、高級外食店もにぎわう。この落差は何なのだろう。

 取材後、冷えきった自宅に帰り、暖房をつけようとしてためらった。しばしコートを着たままたたずみ、ため息をついて結局スイッチを入れた。以来、暖房に手を伸ばすたび、躊躇(ちゅうちょ)と感謝が入り交じる。豊かなはずのこの国で、それを実感できない日が続いている。 (加藤美喜)