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テヘラン イランの中の おしん

2023年04月16日

 「おしんに似ていますね」。タクシー運転手が、バックミラー越しににやりと笑った。絶対に似ていないと思ったが、「そうですか? ありがとう」とお礼を言った。昨年末に訪れたテヘランでは、私が日本人と分かると、多くの人がテレビドラマ「おしん」の話題を振ってきた。

 イランでも1980年代におしんが放送され、爆発的なヒットとなった。おしんのひた向きでけなげな姿や、苦難に立ち向かう姿に多くのイラン人が引き込まれ、著名な女性作家がテレビ番組で「私の尊敬する人はおしんです」と答えるほどだ。

 イラン各地には、おしんの結婚後の姓「田倉(たのくら)」に由来した「タナクラバザール」と呼ばれる古着市もある。おしんが結婚後に服飾業で成功したことにちなんだとみられ、友人のムハンマド(42)は「ものごころついたときから『タナクラ』と呼んでいた。欧州から運んできた古着を売っている」と教えてくれた。

 今なお多くのイラン人に愛されているおしん。だが、制裁で危機的な状況下、「表現の自由」などが制限された社会でも踏ん張って生きるイラン人こそ、現代のおしんそのもののような気がした。 (蜘手美鶴)