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パリ 隣国にて恩師の悲報

2023年05月15日

 「彼は、君の知り合いだったんじゃないか?」。ある朝、パリ支局に出勤した直後に友人からSNS(交流サイト)経由で届いたメッセージ。添付されていた訃報記事に目を疑った。

 伊紙コリエレ・デラ・セラの運動記者だったロベルト・ペッローネさん。学生時代、イタリア留学から帰国した直後に日本で開催されたサッカーワールドカップ(W杯)中に知り合い、通訳のアルバイトを務めた。

 彼の興味はグラウンド内にとどまらず、サッカー選手と宗教の関係といった社会派の取材にも同行させてもらった。生き生きと取材する姿に感銘を受けて記者職を志し、同業者になったことを告げた時は心から喜んでくれた。新聞社を辞してからは作家としても名声を得ていたが、数年前に私の同僚記者が取材のためイタリアを訪れた際には、大学で日本語を専攻していたまな娘を通訳に、自らは運転手として快く取材の手伝いを引き受けてくれた。

 まだ65歳。隣国で勤務することになり、再会の機会が訪れることを願っていた中で悲報に接し、20年の時を経ても記憶に残る柔和な笑顔を思い返した。合掌。 (谷悠己)