2023年06月23日

　北京から南へ１００キロほどの場所にある河北省「雄安新区」。その一角には真新しい高層マンションが整然と並んでいた。この新区は習近平（しゅうきんぺい）国家主席が提唱した環境に優しく先進的な未来都市で、開発が本格的に動きだしていた。土ぼこりの立つ建設現場から程近いこのマンション群は、開発で立ち退きを余儀なくされた周辺農村の住民のために建てられたという。

　表通りを散歩していた劉さん夫妻に話を聞くと、開発で農地や家を失ったため昨年移り住んで補助金で暮らしているという。「暖房が効くのはありがたいが、近くに商店もないし生活は不便だ」。このようにこぼした後、「同じ村の人はバラバラの場所を充てられたため、近所に知り合いがいない。子どもを頼って出て行った人も少なくない」と話した。

　人通りの少ない街並みを歩くと、「富強園」と名付けられたマンションや「犠牲を恐れず勇敢に戦い、党に忠誠を誓い人民に背かず」のスローガンなど、習氏が好んで使う堅苦しい言い回しがあちこちで見られ、息苦しさを感じた。現実より理想が優先される街が、にぎわう日は来るのだろうか。　（新貝憲弘）