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モスクワ 愛国の不穏な地鳴り

2023年06月26日

 氷点下15度。1時間も立っていると足の指の感覚が薄れてくる。傍らの多くのロシア人は興奮ゆえに震えていた。2月22日、モスクワのスタジアムで開かれた愛国集会。

 特別軍事作戦と称したウクライナ侵攻で「ロシア軍に救われた」という少女が、感謝の言葉を述べ、20万人の観衆が拍手で応える。軍歌が響き、廃虚となったウクライナの港町マリウポリの街並みが映し出される。街を壊したのはロシアではなくウクライナ軍という演出だ。

 第二次大戦中、日本やドイツなど全体主義の国々で開かれた愛国集会が頭に浮かんだ。国際社会はウクライナからロシアが撤退するよう求めているのに、ここでは「ウクライナを倒せ」とばかりに地鳴りが響く。皆が侵攻を「正義」、あるいは「やむを得ない」と捉えている。

 観衆に話も聞いた。学生のサーシャさん(19)は「民間人が死ぬのは残念だがロシアに脅威が迫っていた」ときっぱり。ジーマさん(18)も「プーチン大統領を信頼している。われわれが勝利する」と言った。

 侵攻は続くのだろう。本音はともあれ、大半が大統領に従う社会だから。 (小柳悠志)