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むろと廃校水族館

むろと廃校水族館 高知県 あじわい深い独創ぶり

小学校の旧校舎を改修した高知県室戸市の「むろと廃校水族館」。体育館を除き、全ての施設が水族館として活用されている

小学校の旧校舎を改修した高知県室戸市の「むろと廃校水族館」。体育館を除き、全ての施設が水族館として活用されている

 海からの湿った風が、ほおをなでた。太平洋に突き出た高知県東部の室戸半島。2011年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界ジオパークに認定され、生態系の多様性や岩石海岸などの地質遺産で知られる。そんな観光名所に新たな“レガシー”(遺産)となる施設が昨年4月末にオープンし、県内外から注目を集めている。

 訪ねたのは、18年前に閉校した室戸市立椎名小学校の旧校舎をほぼそのまま利用した「むろと廃校水族館」。市が国と県の協力も得て5億5000万円で改修した。建物の前に立てば、遠い昔の登校気分がよみがえる。思わず「おはようございます!」と口にしたくなる外観だ。
 

ウミガメの水槽を設置した旧校舎の教室。展示の説明書きは子どもに分かりやすい言葉が使われている

ウミガメの水槽を設置した旧校舎の教室。展示の説明書きは子どもに分かりやすい言葉が使われている

 このユニークな水族館を発案したのは、館長を務める若月元樹さん。施設の運営管理を行うNPO法人「日本ウミガメ協議会」のメンバーで、16年前から同市を拠点にウミガメの生態を研究している人物だ。

 「廃校」には少子化、過疎化といった負のイメージもつきまとうが、若月館長は「面白いことをやっていれば人は来る」と強調。あえて施設の名称にも取り入れた。実際、来館者数は右肩上がりで、人口約1万3000人の室戸市において、開館から1年間で当初目標の4倍を上回る17万6000人が訪れた。2年目もその勢いは衰えない。

 1階の受付には「大人600円、子ども300円」とある。水族館にしては安い入館料だ。進んでいくと、廃校ならではのユニークな展示に目を奪われる。階段の壁には子どもたちによる「イカの墨で書いた習字」の作品が張られ、2階に上がると、手洗い場に海水を張った「タッチプール」でナマコやヒトデのほか、エビやカニにも触れることができる。廊下は学習机の上に置かれた魚介類、甲殻類の標本がずらりと並び、教室には数々の水槽を配置。屋外に出れば、25メートルプールが圧巻にして斬新だ。数種のサメが生き生きと泳ぎ、隣の小プールではウミガメが水面から顔をのぞかせる。

廊下にずらりと並ぶ数々の標本

廊下にずらりと並ぶ数々の標本

 展示されている50種、1000匹以上の生き物は「地元の漁師からもらっている」と若月館長。そのため「珍しい魚はいない。目玉がないのが目玉」と笑う。室戸半島の周辺海域は栄養塩の豊富な海洋深層水が湧き上がる好漁場で、アジ、サバ、ブリなどの回遊魚を対象とした定置網漁が盛ん。「ウミガメは定置網に掛かったもの。タカアシガニは左側の脚が1本ない。売り物にならないので漁師がくれた」。教室に展示したミンククジラの骨格も、もとは近くの椎名港で水揚げされたものだという。

 年間運営費は6000万円。水槽やプールの水は「海からの掛け流し。ろ過装置を使う施設だと10億円はかかる」と言い、海沿いの立地を生かして低コストを実現した。宣伝も口コミが頼みで、館内用のポスターと案内パンフレットを作った以外は、会員制交流サイト(SNS)のツイッターのみで情報発信。それでも人気は広まり、最近は外国籍の大型客船が寄港する高知新港から、多数の外国人観光客が訪れる。来館者からは「校内なんだという懐かしさ」という声が届くなど「学校なのに水族館」という奇抜さが受けている。

(左)水槽に生まれ変わった跳び箱 (右)サメが泳ぐ25メートルプール。サバ、アジ、ブリなども共存している=いずれもむろと廃校水族館で

(左)水槽に生まれ変わった跳び箱 (右)サメが泳ぐ25メートルプール。サバ、アジ、ブリなども共存している=いずれもむろと廃校水族館で

 一般的に水族館の新設には数10億円規模の投資が必要とされる中、アイデア勝負で新風を吹かせる。館長が「これほど現役利用している廃校はない」と言うだけあって、メディアの取材のほか、自治体関係者や経営コンサルタントらが集客のコツを学ぼうと視察に訪れる。ノスタルジックな館内と、歩を進めるほど驚きに出合う独特の展示。少し変わった体験を求めるなら、絶好のスポットといえよう。

 文・写真 小杉敏之

(2019年12月13日 夕刊)

メモ

地図
オープンデッキ型観光列車

オープンデッキ型観光列車

◆交通
JR岡山駅から特急「南風」に乗り、約2時間半で後免駅へ。
土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線に乗り換え、約1時間(同線オープンデッキ型観光列車は約1時間20分)で終点の奈半利(なはり)駅に到着後、高知東部交通バスで「むろと廃校水族館前」まで約1時間半。
高知龍馬空港からは車で約1時間40分。

◆問い合わせ
高知県観光コンベンション協会=電088(823)1434。
県東部観光協議会=電0887(34)0866。
むろと廃校水族館=電0887(22)0815。

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※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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