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冬の奥入瀬

冬の奥入瀬 青森県 白銀の静寂が包む渓流

雪の積もった奥入瀬渓流。支流は滝となって流れ込み、滝は厳冬期には氷瀑になる

雪の積もった奥入瀬渓流。支流は滝となって流れ込み、滝は厳冬期には氷瀑になる

 樹木とコケの緑色は、雪の白色に変わっていた。清流と石、雪が織りなす柔らかなモノトーンの風景を、冬の静寂が包む。

 大自然に抱かれた景勝地として知られる奥入瀬(おいらせ)渓流(青森県十和田市)。記者にとっては、青森市に住んでいた小学生時代、夏に家族で訪れた思い出の地だ。

 渓流の玄関口に当たる焼山(やけやま)地区の宿から、バスで渓流沿いの国道102号を走る。流れを横切る橋の上に降り立つと、ピリッと冷たい朝の空気がほおに伝わる。気温は氷点下3度だが、風が強くなければ、それほど寒くは感じない。

 遊歩道の積雪は数センチ。普段のスニーカーで歩くと、すぐに滑って転んだ。冬の奥入瀬は、スノーシュー(かんじき)を履き、地元の団体や宿が主催するガイドツアーに参加するのが安全な楽しみ方だ。滝は厳冬期には凍って「氷瀑(ひょうばく)」になり、見どころが増える。

 「夏はうっそうとした緑に覆われているが、冬は遠くまで見通せる」と、同行したNPO法人「奥入瀬自然観光資源研究会」ネーチャーガイドの川村祐一さん(64)。渓流は蛇行しながら、葉を落とした広葉樹林の谷を上っていく。地形が立体的に感じられ、深い森に隠された大自然の骨格が見えた気がした。

 奥入瀬川は、カルデラ湖の十和田湖から流れ出る唯一の川。太平洋にそそぐ約70キロのうち、約200メートルの高低差を流れる上流14キロが奥入瀬渓流と呼ばれる。周囲はブナなどの深い森。支流は滝になり、渓流へと流れ込んでいる。

 「観光は春の桜から」が従来の青森県のイメージ。でも「冬だからこそ楽しめることもある」。十和田奥入瀬観光機構の工藤彰さん(33)。青森県の観光地は近年、台湾から雪を見に来る観光客が増えている。「北海道から津軽海峡を渡り、訪ねてくる方も多い」。温暖な地に住む人には雪国の風物は大きな魅力。ただ、最近は暖冬も多く、川村さんは「氷瀑や積雪の状況は、事前に確認してから来たほうがよい」と言う。

十和田市現代美術館の野外展示。作品はチェ・ジョンファさん(韓国)の「フラワー・ホース」=いずれも青森県十和田市で

十和田市現代美術館の野外展示。作品はチェ・ジョンファさん(韓国)の「フラワー・ホース」=いずれも青森県十和田市で

 渓流を抜けると、十和田湖に出る。鏡のような湖面に、どこまでも静かな湖畔。澄んだ青空。幻想的な風景が続く。冬は泊まれる宿も限られるが、地元はオフシーズンの誘客に力を入れ、湖畔の休屋(やすみや)地区ではここ数年、冬花火も打ち上げられているという。

 十和田市では他に、市現代美術館にも足を運んだ。

 冬の青森観光には、暖かい屋内も予定に組み込んだほうがいい。弘前市の弘前城近くにある「津軽藩ねぷた村」は、夏の風物詩「弘前ねぷた祭」で市内を巡る山車「ねぷた」の実物展示や、津軽塗の模様の研ぎ出し体験などができる。記者は「りんご土鈴」への絵付けを楽しんだが、一番人気は針金と和紙で作る「金魚ねぷた」の模様付けという。

鶴の舞橋付近から岩木山を望む。橋の向こうには3月の完成を目指して、観光物産館の整備が進んでいる=青森県鶴田町で

鶴の舞橋付近から岩木山を望む。橋の向こうには3月の完成を目指して、観光物産館の整備が進んでいる=青森県鶴田町で

 旅のもう一つの目的地は、弘前市の北隣、鶴田町にある「鶴の舞橋(まいはし)」。農業用のため池だった津軽富士見湖に1994年に完成した木造橋で、約300メートルの全長を誇る。2016年にJR東日本の観光CMに女優の吉永小百合さんと共に登場し、話題を呼んだ。

 ハクチョウやカモ類の渡り鳥が見られる。天気が良ければ、橋上から岩木山(1625メートル)を望め、湖面に映る「逆さ岩木山」をめでることもできる。

 この日は雲がかかり、山頂までは見えなかった。「また来なさい」という岩木山の意思だろう。

 文・写真 酒井健

(2020年2月14日 夕刊)

メモ

◆交通
奥入瀬渓流へは、八戸駅から車で国道102号などを通り、冬季は1時間20分。
JRバス東北の予約制バスも、24日まで1日2往復している。
津軽藩ねぷた村は、弘前駅からバスで15分。
鶴の舞橋はJR五能線の陸奥鶴田駅からタクシーで10分。

◆問い合わせ
十和田奥入瀬観光機構=電0176(24)3006、
津軽藩ねぷた村=電0172(39)1511、
鶴田町企画観光課=電0173(22)2111

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★B級グルメ「十和田バラ焼き」
終戦後、三沢基地駐留の米軍から流れた牛肉を、タマネギと混ぜて食べたのが由来だという。
甘めのたれをつけて鉄板で焼き、ご飯にのせたり、酒のつまみにしたりして食べる。
十和田市内の80店以上で味わえる。
ご当地B級グルメの祭典「B-1グランプリ」で2014年の最高賞を獲得した。

★十和田市現代美術館
美術館建築の旗手とされる西沢立衛(りゅうえ)さんが設計した施設で、採光性が良く、のんびり鑑賞できる。
08年にオープン。
草間彌生(やよい)さんやロン・ミュエクさん(オーストラリア)など国内外の33組の作家による38点の現代アートを常設展示している。
午前9時~午後5時(入館は4時半まで)、月曜(祝日の場合は翌日)休館。
入館料1200円(常設展のみは520円)、高校生以下無料。
電0176(20)1127

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。