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ローマ 躓きで振り返る歴史

2014年12月01日

 ローマのわが集合住宅の玄関ホールに大勢の人が集まっていた。イスラエルから来た「弔問」客だという。葬儀などなく不審に思ったが、皆の視線の先を見て納得した。2年前、玄関前の路上に埋め込まれた「躓(つまず)きの石」を囲んでいた。

 「躓きの石」とは、ドイツ人アーティストが、ナチスの強制収容所に送られ亡くなったユダヤ人を追悼し、欧州各地の犠牲者の住居前の路上に埋め続けている石のこと。約10立方センチメートルの石の表面に真鍮(しんちゅう)板を張り付け、犠牲者の氏名と生没年月日が刻印されている。

 ここに住んでいたのはアウグストとビルジニアの夫婦。1943年、ドイツ軍がローマを占領。10月16日、大規模なユダヤ人狩りで、夫妻を含む1023人のユダヤ系ローマ市民がアウシュビッツに送られた。

 夫妻の二男一女の子らは、幸い郊外の農家に逃れていたため難を逃れることができ、8人の孫、34人のひ孫の大家族を形成。大半がイスラエルに暮らしており、今回ツアーを組んでの「墓参」となった。

 光る銘板に躓きそうになって足を止め、通行人や観光客も記憶を共有する。 (佐藤康夫)

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