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仏ピティビエ ケーキだけじゃなく

2022年12月01日

 「これが本物のピティビエよ」。フランス中部の街ピティビエの食堂での昼食中、年配の女性店主が誇らしげに言いながらデザートを運んできた。街の名を冠したアーモンド風味のケーキ。パリッとしたパイ生地で知られているが、出てきたケーキは柔らかくしっとりした食感だった。店主によると、ローマ時代にこの地に根付いていたガリア人が考案したとされ、16世紀の仏王シャルル9世にゆかりがあるパイ生地の方よりはるかに歴史が古いという。

 豆知識が聞けて得した気分で向かった取材先は、駅を改装した第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人迫害(ホロコースト)の記念館。仏国内で検挙されたユダヤ人の多くがこの駅からアウシュビッツ強制収容所に送られ死亡した事実を物語る展示を前に、ケーキにうつつを抜かした身を恥じた。

 「ピティビエは街よりケーキの名前としての方が有名だけど、ホロコーストと深い関わりがある街だという事実も広まってほしい」。案内してくれた地元出身のエバさん(23)は、ここで勤めることを決めた理由を話してくれた。その思いを、忘れないようにしたい。 (谷悠己)