2023年05月29日
韓国の飲食店では銀色のおわんに盛ったご飯が出てくることが多いが、小さな釜で炊きたてを供する店もある。釜の表面のお焦げ(ヌルンジ)を味わうのが醍醐味(だいごみ)だ。
一般的な食べ方はこうだ。釜が熱いうちにご飯を別の器に移し、ヌルンジがこびり付いた状態の釜に水やお湯を注ぎ、ふたをする。料理を食べ終わるころにはヌルンジがふやけ、食べやすくなっている。
ある脱北者の男性と食事をしたとき。私がいつも通りに釜にお湯を注ぐと、彼は「釜が冷めてから水を注ぐと、ヌルンジの香ばしさを味わえる」と言う。それは北朝鮮式?と尋ねると「母がやっていた。うちだけのやり方だ」と笑った。
「軍隊で食べた大釜のヌルンジは、実にうまかった」とも。彼は約二十年前に身の危険を感じて単身脱北し、家族とは一切連絡を取れていない。ソウルで独り暮らしをしながら、故郷を懐かしんでいるようだった。
ヌルンジはふやかさないとやや食べづらいが、カリカリした食感も悪くない。以来、釜飯が出るたびに彼のことを思い出し、どちらの食べ方にしようかと思案する。(木下大資)