2014年02月12日
冷たい雨の中、ベルリンの東にある旧東独の国家保安省本部跡を訪れた。一党独裁の社会主義体制を守るための秘密警察。ドイツ語の略称で「シュタージ」と呼ばれた。9万2000人の職員と、市民の中に10万人の内通者を抱え、友人や同僚、時には家族の言動をも密告させた。
内部は博物館として公開され、カメラを仕込んだネクタイやバッグなど、ひと昔前のスパイ映画に出てきそうな装備を紹介するコーナーがある。
そこで目を引いたのは、公園の木立に取り付けるような木製の巣箱。よく見ると小鳥が出入りする穴からカメラのレンズがはみ出ているのにすぐ気づく。これじゃバレバレだと思っていたら、「市民に心理的な圧力を与えるため、わざとレンズを目立たせたのです」と案内役の男性職員(34)は言う。人びとをおびえさせ、萎縮させ、扱いやすくするために、シュタージはこうして社会に不信の種をまき散らしたのだ。
シュタージがまいた不信は回り回って彼ら自身をもむしばんだようだ。職場で席を離れる際はたとえわずかの間でも、すべての書類をロッカーに片付け、毎回扉をろうで封印する決まりだった。何とも寒々しい職場だ。
ベルリンの壁崩壊から間をおかず、シュタージは解体された。今から24年前の話だ。 (宮本隆彦)