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釜山 卵は目覚め岩越える

2014年05月02日

 最近、韓国でヒットした映画「弁護人」。舞台である釜山(プサン)で見たが、上映が始まると隣席の女子高生2人組が菓子を食べ続け、その音が気になった。

 主人公は釜山で弁護士をしていた故盧武鉉(ノムヒョン)元大統領がモデル。政権が反政府活動の取り締まりを強めた1980年代、読書サークルの学生らが共産主義者として連行され、拷問で虚偽の自白を迫られる。主人公が弁護し、最終盤の法廷で「これは拷問で捏造(ねつぞう)された人権じゅうりん事件であり、国家保安法事件ではない」と無罪を訴える。傍聴席からは拍手が起きる。そのとき、耳を疑った。隣席の女子高生も拍手をしているのだ。

 主人公は当初、金になる仕事だけをし、学生デモを見ても「デモで変わるほど世の中が甘いか。卵をいくら投げても岩は壊れない」と冷笑していた。だが常連の食堂から貧しい女主人の息子が連行された後、変身していく。食堂の大学生の息子は言う。「岩は壊れて砂になるが、卵は目覚めて岩を越える」

 岩は社会や体制、卵は個人の精神か。隣の女子高生は殻の中の魂を揺さぶられたのだろう。若々しいその拍手に、拍手を送りたくなった。 (辻渕智之)