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キルギス・イシククリ湖 幻でなくなった今も

2019年09月10日

 中央アジアのキルギスは、国土の9割が標高1500メートル以上という山岳国家だ。山々に囲まれ、かつて幻の湖と呼ばれたイシククリ湖がある。謎めいた響きにひかれ、首都ビシケクから東へ180キロ、車で約3時間の道をたどった。

 「幻の湖」のゆえんは、ソ連時代に、外国人が立ち入り禁止だったから。渓谷を通り抜け、たどり着いた場所は確かに絶景。琵琶湖の9倍という広い湖面は青く澄んだ水をたたえる。背後に雪を冠した天山山脈が広がり、幻想的だった。

 夏の間は、湖水浴場としてにぎわう。湖岸の気温は30度近くあり、日差しはきついが、山脈からの冷たい風が混じる。バーベキュー跡の周囲には、羊の骨が残っていた。地元の人に聞くと、羊の肉は古来、重要なタンパク源で、羊一頭をさばくのが一人前の男の仕事だという。

 湖畔のチョルポン・アタ市は保養地として知られるが、いわゆる現代的なホテルなどは見当たらず、家族連れが湖畔でくつろぐ姿は、ソ連時代のノスタルジーを感じさせた。いまや誰でも訪ねられる湖だが、手つかずの素朴さは、「幻」といえるかもしれない。 (栗田晃)