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ワシントン 魔法の靴くれない国

2019年10月30日

 「この博物館で一番人気のある展示品は何か分かりますか」。スミソニアン米歴史博物館の学芸員・実藤紀子(さねふじのりこ)さんに聞かれ、戸惑っていると、意外にも「ルビーの靴」との答えが返ってきた。

 映画「オズの魔法使」で、主人公ドロシーがオズの国の「北のよい魔女」からもらった赤い靴だ。映画公開から今年で80年。博物館が靴に張り巡らした約4800枚のスパンコールを一枚ずつ丁寧に修繕し、鮮やかな色がよみがえった。展示場では、確かに大人から子どもまで、お宝発見とばかりに見入っている。

 「ルビーの靴は、一つには故郷を思う気持ちを表しています」と実藤さん。ドロシーはカンザス州のわが家に戻るために「家にまさるところはない」と唱え、かかとを3回鳴らすと、家のベッドで目を覚ます。

 今、米国に新たな故郷を探し求めた人たちが居場所を失いつつある。トランプ大統領は移民の入国を厳しく規制し、不法移民を犯罪者と決めつけて追い出し、元難民の下院議員に「国を出て行けばいい」とまで言い放つ。彼らにとってドロシーの靴は、虹の彼方(かなた)の手が届かないところにある。 (岩田仲弘)