2020年02月06日
英国の古都ヨークを訪ねた。城壁がぐるりと囲む街の中心にヨーク大聖堂がある。壮大なゴシック建築で、見上げるステンドグラスは息をのむ繊細さ。聖堂の片隅にある、八角形の不思議な部屋チャプターハウスで、英国人のツアー一行に遭遇した。彼らは壁沿いにそれぞれ腰を下ろし、私も離れて着席。ちょうど対角線上にガイドの男性が座った。その距離10メートル以上。
ガイドは「この部屋は誰が話しても全員に聞こえる」と説明し、突然、私に何か言うよう促した。驚きながら「聞こえますか?」と言うと、ガイドは「ロー(low)・ボイスで」とさらに要求。一瞬考えた。「聖職者は男しかいないから、男のまねをしろということか…」
覚悟を決め、自分が出せる最も低い声で「聞こえますか?」と発すると、ツアー客たちは火がついたように笑いだした。「ああ、小さい声を出すべきだった!」と気付いた時には後の祭り。神聖な部屋は爆笑の渦と化し、笑い声が反響していた。
ロー・ボイスには低い声、小さい声と両方の意味がある。せめて「スモール・ボイス」と言ってくれれば、もっとゆっくり見学できたのに。 (沢田千秋)