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モスクワ フラれちゃった日本

2020年04月30日

 背中に視線を感じた。クスクスという笑い声とともにこちらを見詰める2人の少女がいる。5歳の息子と公園に出掛けた日曜のこと。7、8歳とおぼしき2人の少女は恥じらっている。日本人と知り合いになりたいのだろう、と思った。

 和食、伝統文化、アニメ。「日出ずる国」に憧れるロシア人は多いから。少女たちは意を決したように遊具のうんていに手を伸ばし、こっちに近づいて来た。ゆらーん、ぶらーん。私たちとの距離が狭まると声をそろえた。「ニーハオ」

 え、日本人なんですが…。

 返す言葉もない私と息子。少女たちはロシア語に切り替えて続けた。「私たち中国語を学んでいます。ぜひお近づきに」。国籍を伝えると、2人は栗毛色の髪をなびかせ走り去った。「さよなら」もなく、日本人に用はないとばかりに。

 モスクワでは最近、中国語を学ぶ子どもが多い。中ロ間の経済関係が深まり、中国語ができれば、実入りのいい仕事が見つかると思われている。世界情勢に敏感なお嬢さんたちだったのだろう。日本という国がロシアにフラれたようで切なかった。 (小柳悠志)