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ロンドン 離脱反対おじさん

2020年06月16日

 この1年、何度も徹夜し、最も時間を費やしたのは、英国の欧州連合(EU)離脱問題だ。英下院が協定案を否決し、離脱が延期されるたび「またか」と嘆息したが、ついに実現した。

 ただ、私に英国の離脱を実感させたのは、首相の演説でも下院の採決でもなく「離脱反対おじさん」の哀れな姿だった。

 英国民なら知らぬ人はいない。英国旗とEU旗をあしらった山高帽とマント姿で連日、国会前に現れ「ストップ、ブレグジット」と大声で連呼。テレビ中継では、いつも彼の声を聞かされた。1年半前、少し言葉を交わしたことがある。意外にぶっきらぼうだったが、写真撮影には快く応じてくれた。

 昨年12月、総選挙で与党が圧勝し、離脱が確実となった後、その動画は流れた。トレードマークの帽子を奪われ、追いかけるおじさんを笑いながら撮影する男性。走るおじさんは別の男性に足をひっかけられ、派手に転び、路上に突っ伏した。

 国を二分した議論の末、本懐を遂げられなかったおじさんは、嘲笑の的になっていた。これが紳士の国か。今はまだ、離脱後のこの国に明るい未来を見ることができない。 (沢田千秋)