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ロンドン 泥だらけの旗に思う

2020年05月02日

 喜びが大きかったから、悪ふざけも度が過ぎたのかもしれない。ただ、居合わせた私は、先行きがちょっと怖くなった。

 英国が欧州連合(EU)を離脱した1月末の夜、ロンドンの議会前広場は離脱派の市民で埋まった。離脱を決めた国民投票から3年半余り。悲願の瞬間をみんなで祝うためだ。熱気と興奮に圧倒されつつ取材していると、入り口近くで泥だらけの旗を見つけた。青地に12個の星をあしらったEU旗だった。

 だれかが地面に敷いたらしい。ごく一部だが、踏み付ける市民がいて、笑いながらカメラを向ける人もいた。周囲からは時々、はやし立てるような歓声も上がり、「EUはマフィアのように支配してきた」「EUは命令ばかりだった」といった言葉が聞かれた。

 約1年前から、離脱派のデモや集会を取材してきたが、この日の言動は過激だった。EUからの解放感ではしゃいだ面も大きかっただろう。ただ、「支配の歴史」を思い返して、EUへの敵意をむき出しにする人も目立った。会場のあちこちに英国旗が高々と掲げられていた。対照的な光景に、不安感が強まった。

 (藤沢有哉)