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ロシア・ブラーツク 抑留の地で苦難思う

2020年06月26日

 ブラーツク。その名を聞いて忌まわしい記憶がよみがえる年配の方もいるだろう。かの地は第二次大戦後、旧日本軍の将兵らが強制労働に就かされたシベリア抑留の舞台だった。

 出張取材のためブラーツク空港に着いたのは朝方だった。氷点下30度。薄暗い大地を雪煙が舞う。その先は森しかない。極寒の地-。多くの日本人がシベリアに抱くイメージそのままの情景が眼前にあった。

 でも、今回の出張を冒険のように書くのははばかられる。履いていた靴は買ったばかりの耐寒仕様品。暖かい肌着を2枚重ねて、羊毛のセーターをかぶった。そこに羽毛がたっぷり入ったジャケットをまとうと、吹雪すら脅威に感じられない。

 約70年前は事情が違った。抑留者にまともな衣料はない。いてつく空気に肺を侵され、手足はしびれ、6万人余りがシベリアに果てた。残る人たちは、森でマムシを捕まえてかじり、たき火ですすを顔に浴びながら寒さに耐えた。

 周辺の鉄道建設では、敷かれた枕木と同じくらいの数の人が死んだと聞く。タクシーの車窓を流れる景色に手を合わせた。 (小柳悠志)