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ニューヨーク 巨大なネズミの意味

2020年12月02日

 朝、出勤のため市内中心部を歩いていると、歩道に巨大なネズミが立っていた。体長3メートルはあるだろうか。

 もちろん本物ではない。ビニール製のバルーンだが、取り澄ましたオフィス街で異様な迫力を放っている。

 「これは何かのイベントですか」。思わず足を止め、ネズミの足元にいた40歳前後の男性に聞いてみた。「いや、そういう楽しいのじゃなくて、みんなに訴えているんだよ」

 そう言われ、手渡されたのは1枚のビラ。目を落とすと、付近の建設労働者らが時間外賃金や労働条件の改善を求めているのだとわかった。医療手当や退職金も支払われてないという。

 それにしても、なぜネズミ?

 「働き者のシンボルだからか」と水を向けると、「面白い見方だな。でも俺たちを表してるんじゃないよ」と男性。聞けば、米国でネズミは「汚いやつ、裏切り者」の象徴なのだとか。つまり、自分たちを搾取する経営者を告発しているのだ。

 コロナ禍で倒産やレイオフが相次ぐ米国。違法労働も増えているという。この街のネズミが媒介するのは疫病だけではないのかもしれない。 (杉藤貴浩)