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米ポーツマス 講和の記憶いずこへ

2021年09月06日

 米東部ボストンに旅行した際、車でもう1時間ほど行けばニューハンプシャー州ポーツマスだということを知り、足を延ばしてみた。ほとんどの人が歴史の授業で覚えさせられたであろう、1905年の日露戦争講和条約の締結地だ。

 到着したのは、海を望む小ぶりで落ち着いた街。目抜き通り沿いにカフェや雑貨店が軒を並べる。116年前に日ロ両国を仲介した米国は、近くに海軍施設があるなど警備上の利点もあってこの地を選んだ。交渉が行き詰まると、市民らは両国の外交官をパーティーに誘い、和平ムードを演出したという。

 そんな歴史を、市民らは今も誇りに思っているはずだ、という期待はあえなく裏切られた。立ち寄った骨董(こっとう)品店の主人は「ここで日本とロシアの条約? 知らないな」とあっさり。「古物の買い付けに家々を回っているけど、聞いた事もない。第一次世界大戦の時の絵はがきならそこにあるけど」

 長い時を経て、講和の記憶も骨董品となってしまったか。店を出て、日ロ代表団が条約を調印した建物を通ると、こちらは豪華なステーキハウスになっていた。 (杉藤貴浩)