2021年09月30日
韓国ソウル市の繁華街、明洞(ミョンドン)の地下鉄駅から、10分余り歩く。南山の北麓に公共宿泊施設「ソウルユースホステル」がある。6階建ての建物の屋上にある鉄塔のような大型アンテナが、異様な存在感を放つ。
その建物は、1961年の軍事クーデターを主導し、後に大統領となった故朴正熙(パクチョンヒ)が創設した情報機関、韓国中央情報部(KCIA)だった過去がある。反政府運動家の弾圧拠点となり、隣接地の巨大地下空間に拷問室が設けられた。
87年の民主化後、建物の撤去を求める声も出たが、負の歴史を語り継ぐため、2000年代にユースホステルになったという。夏休み、内部の取材をしたいと思って訪れてみると、立ち入りが禁止されていた。
なんと、新型コロナウイルス感染拡大を受け、客室が軽症者らの治療に使われていた。救急車の入場口などが仮設フェンスで囲まれる。室内をのぞくことはできないが、ネット上では患者が「部屋はホテルのようで、安心して過ごせる」などとつづったブログも見られる。
コロナ禍が収束し、世界の旅行者が交流する空間に戻ったら、再訪したい。 (相坂穣)