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ニューヨーク 7ドルランチを求めて

2022年05月25日

 物価が上がり続けるニューヨークでは、平日のランチの支出もばかにならない。中心部のオフィス街では、小ぎれいなレストランに入るならチップ込みで三十ドル(約三千五百円)の覚悟が必要だ。昼から一杯飲んでいるわけではない。念のため。

 そこで頼りにしているのが道端のキッチンカー、いわゆる屋台だ。中でもターメリックライスに炒めた鳥肉を盛り、ホワイトソースをかけた「チキンオーバーライス」は地元B級グルメの定番。どの屋台も七ドルほどでボリュームもあり、あとは味とサービスを求めて街を巡る。

 「あれ、おかしいな。人が違う」。先日ある屋台の前で注文を終えたところ、後から並んだ中年女性がつぶやいた。「よくここに来るんですか」と聞くと、「そうだけど、今までの屋台と違うね」と言って女性は何も注文せず帰って行った。

 彼女は正しかった。ほかなら五分ほどしか待たないが、その日は店主が電話で世間話を続け、寒空で十五分。十ドル札を渡すと「水を持っていっていい。あとはチップだ」とお釣りは戻ってこなかった。職場に戻ると味もさんざん。七ドルの旅は、まだまだ続きそうだ。 (杉藤貴浩)