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米タスカルーサ きっとまた助かるさ

2023年06月19日

 だじゃれを言うのも、書くのも趣味ではない。だが、後で思い返して顔を赤らめてもいいから、言ってみようと思った。義勇兵としてウクライナ軍に加わり、ロシア側の捕虜となって解放された元米軍人アレックス・ドルークさん(40)に取材した時の話である。

 場所は彼の故郷、南部アラバマ州の小さな街タスカルーサ。暴力や飢えに苦しんだ捕虜生活を「戦いの悲惨さを知ってほしい」と話してくれた彼と別れる際、「この街の名前は日本語で、きっと救われるという意味ですよ」と告げたのだ。

 もう少しましなことが言えなかったかと後悔しかけたが、アレックスさんはすぐに「運命なのかな。ありがとう」としみじみ言ってくれた。同席した母とおばは「あまりの偶然に寒けさえ感じる」とまで。

 2001年の米中枢同時テロ後、人々を守りたいと米軍に入ったアレックスさんは、今回も同様の正義感からウクライナに渡った。捕虜交換でタスカルーサに戻ることはできたが、今も収容所の悪夢にうなされているという。「助かるさ」。眠れぬ夜に、くだらない冗談を思い出してほしい。 (杉藤貴浩)