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ニューヨーク 「ゲルニカ」が待つ平和

2022年05月11日

 193カ国が加盟する国連。ニューヨークの本部ビル2階の安全保障理事会議場前には、巨匠ピカソがスペイン内戦の悲惨さを描いた「ゲルニカ」の複製タペストリーが飾られている。国連が目指す国際平和と反戦の象徴だ。

 先日、各国の国連大使や外交官が、この「ゲルニカ」前に集まり、ウクライナ国旗を広げて報道陣の写真撮影に応じた。ロシアの侵攻を受けるウクライナへの連帯を示すためだ。そこで、あまりの人数の多さに記者側から質問が飛んだ。「今、何カ国の代表がいるんでしょうか」

 「193だよ」。即座に外交官側から数字が返ってきた。狭い議場前、実際にそんな多数がいたわけではないが「みんながウクライナを支持している」と伝えたかったのだろう。少し場が和らぐ。そして誰かが続けた別の軽口に、寂しい笑いが広がった。「あ、192か」

 ただ1つ引かれた数は、むろんロシアの分。スペイン内戦に続く第二次大戦では、前身のソ連が世界最多の死者を出した国でもある。その大統領が戦火の愚かさを思い出すのはいつか。「ゲルニカ」は、静かにその日を待っている。 (杉藤貴浩)