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北京 心地よき寝台車の旅

2023年05月18日

 夜のプラットホームに降りると、「緑皮車」と呼ばれる古めかしいモスグリーンの車両が現れ、旅情がかき立てられた。

 北京から中国中部の武漢に取材に向かう際、早朝から動ける寝台列車をあえて選んだ。日本ではほとんど姿を消してしまった寝台列車。当地では高速鉄道よりも割安で、現役で庶民の長距離移動を支えている。

 今回利用したのは、1部屋に上下2段のベッドが向かい合う「軟臥(なんが)」と呼ばれるタイプ。ベッドは180センチの記者には少し小さいが、布団は柔らかく寝心地は上等だ。武漢までは約1100キロで10時間以上かかる。時速約100キロで進む車両は適度に揺れて逆に眠りを誘い、朝までぐっすりと眠ることができた。

 何より女性車掌のサービスがありがたかった。もともとは3人部屋だったが、「空いているから」と1人部屋に移してくれた。買い忘れた夜食の相談をすると、カップ麺の差し入れまでくれた。翌朝の武漢では、抗議デモの取材が控え、現地の厳重な警戒体制への一抹の不安もあった。しかし、温かいサービスと車窓から見えた雄大な長江の姿がその不安を和らげてくれた。 (石井宏樹)