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ロシア・サンクトペテルブルク たった1人 反戦訴え

2023年05月01日

 1億4000万人余のロシア国民でたった1人、国内でウクライナ侵攻に反対してデモを続ける女性がいる。古都サンクトペテルブルクの画家エレーナ・オシポワさん(77)だ。

 彼女のアトリエには青年の写真が飾ってあった。聞くと若くして亡くなった息子だという。オシポワさんの母親も亡くなる前の10年間、腕の神経を病み、ペンしか持てなくなった。反戦活動で警察に捕まるのは怖くないのか、と尋ねると「独り身だから怖くない」ときっぱり。

 ロシアはなぜ戦争に突き進んだのか−。私の問いに対して、オシポワさんの分析は明快だった。体制維持のためには犠牲を厭(いと)わないこと。領土的野心のある大統領がいること。「ロシアは資源と豊かな文化があっても国の心は貧しい」のだという。

 2時間ほど暗い話ばかりしたが、不思議と勇気が湧いた。開戦後、沈黙と事なかれ主義が支配するロシアにあって、正論を口にし、世界に向かって語れる人がいると知ったから。

 オシポワさんが戦争に反対し続けることを書き記しておきたい。ロシア社会で、戦争を止めようとする良心はわずかでも残っている。 (小柳悠志)