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城下町・杵築

城下町・杵築 大分県 江戸情緒残る石畳の坂

塩屋の坂から見た酢屋の坂。坂の右側、煙突のある建物が綾部味噌

塩屋の坂から見た酢屋の坂。坂の右側、煙突のある建物が綾部味噌

 大分県は、別府などの名湯を擁する「おんせん県」。しかし、温泉だけではもったいない。味のある城跡や城下町が点在する県でもある。その一つで、日本で唯一の「サンドイッチ型」の城下町杵築(きつき)を訪ねてみた。

 どうして「サンドイッチ型」なのか?「一目で分かるものがある」と、市観光協会の内田雄大事務局次長(40)が「きつき城下町資料館」を案内してくれた。江戸時代の町の様子を再現したジオラマだ。南北二つの高台に武家屋敷の区画。東西に走る谷筋の道を挟んで整然と商家が並ぶ。南北の武家の町をパン、真ん中の商人の町を具になぞらえたネーミングだ。

 南の台地「南台」に立つ資料館西側の坂は、谷筋に下る塩屋(志保屋)の坂。石畳が美しい。谷の向こうには、北の台地「北台」に続く酢屋の坂。石畳の坂の向こうに、もう一つ石畳の坂が見える特徴的な景色だ。

 絵になる景色は、たびたび映画やドラマのロケに使われてきた。「男はつらいよ」第30作(1982年公開)で沢田研二さん扮(ふん)する三郎が車で通り掛かり、田中裕子さん演じる螢子(けいこ)に声をかけたのは塩屋の坂だ。今は坂の上り口が階段に戻されているため、車で通り抜けられなくなっているが、寅(とら)さんが石垣の陰からふらりと出てきそうな雰囲気は往時のままだ。

 坂の名から、昔の暮らしをうかがい知ることができる。

 人の出入りを改める番所が置かれた坂は「番所の坂」。酢屋の坂には酢屋があった。坂の上がり口にある「綾部味噌(みそ)醸造元」の前身は酢屋。綾部味噌は、江戸時代に建てられた建物同様、みそ造りの伝統を守る。高さ約2メートルもある木のたるで1年以上かけて造る麦みそは、豆みそに近い色で、こくのある辛口。杵築は、醸造の奥深さも感じさせてくれる町だ。

勘定場の坂にある、富士山をかたどった二つの踏み石を指す工藤さん

勘定場の坂にある、富士山をかたどった二つの踏み石を指す工藤さん

 坂にも個性が。「城下町と城を結ぶ勘定場の坂は、殿様が乗ったかごを担ぐ人が歩きやすい段の高さ、幅になっている」と、案内をしてくれたボランティアガイドの工藤修一郎さん(73)。途中には、凹凸が富士山に見える踏み石がある。「上から24段です」。二(ふ)四(じ)か、なるほど。その下の段には、湖に映った逆さ富士をかたどった石が。石職人の芸が細かい。

 坂や武家屋敷を巡ると、着物姿の人が多いのに気付く。杵築では、着物を着た人は公共観光文化施設の入場料が無料になる。城下町の「レンタルきもの和楽庵」では、着物のレンタルサービス(3000円、受け付けは午後2時まで)もある。

城下町の東の小高い丘に立つ杵築城=いずれも大分県杵築市で

城下町の東の小高い丘に立つ杵築城=いずれも大分県杵築市で

 城下町資料館の東側、台地の端にある展望台から東に目をやる。瀬戸内海を背にした杵築城の天守が見えた。城下町とは離れた丘の上に立ち、埋め立て前は3方向を海と川に囲まれていた。大友氏の支配下にあった1585年、薩摩の島津氏の猛攻を2カ月間耐え、1600年の関ケ原の戦いの際には、西軍の攻撃にも屈しなかった難攻不落の城。現在の天守は1970年に市民の寄付を元に、天守跡に建てられた模擬天守だ。江戸時代の建物が並ぶ武家屋敷とは一線を画すが、雄大な景色を見ていると、そんなことは、どうでもよくなってくる。

 「城の近くには、ソメイヨシノが植えられているんですよ」と内田さん。桜の咲く季節は、どんなにきれいな景色になっているんだろうと想像しながら、城下町を後にした。

 文・写真 佐橋大

(2020年2月28日 夕刊)

メモ

◆交通
大分空港へは、中部国際空港から朝夕の2便、羽田からは1日14便。
空港から杵築バスターミナルまでは、路線バスで約30分。

◆問い合わせ
杵築市観光協会=電0978(63)0100

おすすめ

うれしの

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日出城跡

日出城跡し

★大原邸
酢屋の坂の上にある上級武士の屋敷。
立派なかやぶき屋根や回遊式庭園が見どころ。
午前9時~午後5時。
入場料一般300円、小中学生150円。

★うれしの
江戸時代から続く鯛(たい)茶漬け。
杵築藩の殿様が「うれしいのう」と言い、食べたことから名付けられた。
杵築城近くの飲食店「若栄屋」が提供。
生のタイの切り身に絡むごまだれは代々守る秘伝の味。
若栄屋=電0978(63)5555

★ひいなめぐり
3月22日まで、杵築城や城下町の文化施設、店舗など市内30カ所に、おひなさまが飾られる。
中には江戸時代から伝わるおひなさまもある。

★日出(ひじ)城跡
杵築市の隣、日出町には、日出藩3万石(後に2万5000石)の居城、日出城の跡がある。
別府湾に面した美しい石垣が残る。
江戸時代の建物は2層2階の鬼門櫓(やぐら)が現存。
櫓は明治以降に別の場所に移築され、再び城跡近くに移築された。
ひじ町ツーリズム協会=電0977(72)4255

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。