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パリ 80代起業奮闘及ばず

2012年01月26日

 フランス中部の地方都市でこの冬、老夫婦が切り盛りする小さなパン店がオープンした。注目を集めたのは2人の年齢だった。妻81歳、夫84歳。「年金だけではやっていけない」と一念発起したという。高齢者が元気な国とはいえ、さすがに80代の起業は異例だ。テレビや新聞は2人の奮闘ぶりを報じた。

 フランスは欧州屈指の長寿国だ。平均寿命は男性78.1歳、女性84.8歳。引退後の生き方は常にこの国の大きなテーマで、ユーロ危機で年金の将来が不安になると、関心はさらに高まった。仲良く、快活にパンを焼く2人が脚光を浴びたのも、そんな背景があるからだ。

 結婚58年目の夫婦の挑戦は長寿国、日本の人々の心にも訴えるものがあるだろうと思い、取材を計画した。連絡先を調べ、面会を申し込もうとした時に、地元紙のサイトを見た支局の助手が言った。「だめです。やめてます」

 パン店はすでに閉店していた。報道によると、開店の数日後、立ち通しの夫が足腰を痛めた。その後も健康面の不安が消えず、最新パン焼き機などの操作にもてこずった。2人は店を断念していた。

 老夫婦の果敢な挑戦は、さわやかな気分を世間にもたらす一方で、最後に現実の厳しさを教えてくれたようだ。(野村悦芳)

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