2015年03月06日
米ノースカロライナ州グリーンズボロに、ぜひ座ってみたい椅子があった。そこに腰を掛けて写真を撮るのが、かねての小さな願いだった。
1960年2月、4人の黒人男子学生が座り、コーヒーとドーナツを注文した椅子だ。場所は、街の中心部にある食堂の白人専用カウンター。彼らは食事の提供を拒まれたが、静かに座り続けた。翌日も仲間とやって来て、同じように座った。
カウンターの古びた椅子は、今は記念館となった同じ場所にそのままの形で保存されている。案内してくれた若い黒人女性は「汚れた床も当時のままよ」と笑った。安っぽいビニール張りのスツールが、水色、オレンジ、水色-と交互に並ぶ。
最初は4人だけだった座り込みは、白人も含めて大勢が参加するようになり、毎日続けられた。静かな抗議は米南部の各地に野火のように広がり、やがて多くの食堂が「白人専用」の看板を下ろすことになる。
憧れの椅子と対面して喜んだのもつかの間、残念なオチが待っていた。目の前に並ぶ椅子は見るだけで、座らせてはもらえなかった。考えてみれば、当たり前だけど。 (吉枝道生)