ジャンル・エリア : 展示 | 愛知 | 芸術 2024年01月29日
東山動植物園(名古屋市千種区)では、戦争中に多くの動物がエサの枯渇や殺処分により命を落とした。終戦直後、動物不在のさみしさや人々の喪失感を埋めるため、3枚の壁画が描かれた。七十余年を経て劣化が進んでいたが、昨年末まで1年以上かけて専門家チームが修復。市美術館(中区)で公開された。歴史を物語るとともに、文化財保護の重要性も伝える。
1948年、旧カバ舎に設けられた「猛獣画廊」に展示されたことから、猛獣画廊壁画と呼ばれる。いずれも横約5メートルのキャンバスに描かれた油彩画で「南極・北極」「南方熱帯」「アフリカ」の3枚がある。一流画家として評価されていた太田三郎、水谷清、宮本三郎の3氏が1枚ずつ描き、ホッキョクグマやアフリカゾウ、トラなどがたくましく生きる姿を豪快な筆致で表現している。
52年に動物園にカバがやって来たころには、壁画は役割を終えたと考えられているが、いつまで展示されていたか正確な記録はないという。その後は、中区にあった施設「名古屋観光会館」に移され、97年に市美術館に収蔵された。
美術館は開館35周年事業として猛獣画廊壁画の修復プロジェクトに着手。県立芸術大の文化財保存修復研究所のメンバーが中心となって破れや絵の具の欠損などを直し、昨年12月に作業を完了した。
今月中旬、チームリーダーを務めた県立芸大の成田朱美研究員が美術館で講演し「次の世代でも修復されることを考えて取り組んだ」と振り返った。修復には学生も関わり人材育成につなげたほか、美術館では修復作業が公開され、子ども向けのワークショップも開かれた。今回の展示でも修復や文化財保護への理解を深めてもらえるよう作業の手順や方法の解説もしている。
展示は3月10日まで。観覧には、常設展観覧券が必要。(問)市美術館=052(212)0001
(村松秀規)