『城』のモデルとなったフリードラント
2008年3月24日
カフカの書いた小説に『城』というタイトルの作品があります。城に招かれた測量士Kを取り巻く、なんとも奇妙な物語です。なにが起こったのかといえばなにもおこりません。大部な作品でありながら、未完であることもあり、読後は狐につままれた気分になることでしょう。
城というと真っ先にプラハ城を思い浮かべます。プラハに生まれ育ったカフカにとってプラハ城は身近な存在であり、人を寄せ付けようとしないその厳しいイメージは『城』のモティーフに符合する部分もあります。
しかし、その実際のモデルとなったのは、ドイツとポーランドの国境にほど近い、フリードラントという小さな街にある城です。「近づいていくにつれて、城は彼を幻滅させた。それは、なんのことはない、(...)まったくみすぼらしい田舎町にすぎなかったのだ」(前田敬作訳、「カフカ全集」、第6巻、新潮社)と、カフカはその城を描写しています。
妹が通っていた学校があるなどしたため、カフカは実際、何度かフリードラントに訪れています。
- 増田 幸弘
1963年東京生まれ
スロヴァキアの都・ブラチスラヴァ在住のフリー記者。
ヨーロッパ各地を取材しながら、日本でも取材。新聞・雑誌に特集記事や連載記事を執筆している。
「プラハのシュタイナー学校」(白水社)や「プラハ カフカの生きた街」(パルコ出版)などの著作がある。