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ロンドン 看護師の言葉で勇気

2021年04月09日

 「幸運を!」

 3月中旬、ロンドンの救急治療センターでエックス線検査を終えると、別の患者から声をかけられた。私と同じく、彼も足首をけがして来院していた。結果が良ければいいな、と励ましてくれたのだ。

 診断結果は骨折ではなかったが、靱帯(じんたい)を損傷していた。治るまでには1カ月ほどかかり、歩く時には医療器具の装着が必要とのこと。不便になる生活を考えて落ち込んでいると、看護師が話しかけてきた。

 彼女の夢は日本への旅行で、京都などで雪景色を楽しみたいという。話題が新型コロナウイルス禍にうつると、「この診療科のスタッフはみんな、ワクチンの2回の接種が終わったの」と語った。うれしそうな表情には安心感がにじんでいた。

 だがワクチンの効果は100%とはいえない。来院者は途絶えない様子で、違う患者に次々に応対しなければならない。そもそも、コロナ禍での看護師の仕事が怖くないか尋ねると、彼女は間を置いて「もちろん、怖いわ。勇気がないとできないわね」とほほ笑んだ。ありがたく思うとともに、沈んだ心が少し前向きになった。 (藤沢有哉)