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ソウル 地域の記憶示す建物

2022年08月26日

 ソウル市内の龍山(ヨンサン)に今年3月に開館した「龍山歴史博物館」に足を運んだ。日本統治時代の1928年に建てられた旧龍山鉄道病院を改装しただけに、日本の侵略の歴史を伝える展示を想像していたが、ある意味で裏切られた。

 「人の性格がそれぞれ違うように、場所にも性格がある」。こんな説明とともに龍山の歴史を紹介。旧日本軍の基地や鉄道駅が造られた経緯はもちろん出てくるが、解放後に移り住んだ人たちが形成した「解放村」や米軍基地と共存した独特の地域文化など、住民の記憶に焦点を当てているのが特徴だ。

 建物は2011年まで現役の病院として使われた。関係者のインタビュー映像もあり、植民地期に由来する「負の遺産」にとどまらない人々の愛着が伝わってきた。アーチ形の梁(はり)、タイル張りの治療室などを残しつつ内装を整え、文化財としての価値も保っている。

 周辺は再開発で高層マンションが林立する中、赤れんがの博物館は独特の存在感を放つ。どんどん景色が変わっていく韓国だが、地域の記憶をとどめようとする余裕も生まれてきたのかもしれない。 (木下大資)