2022年10月20日

　家族や友人、同僚の誕生日をことさら大切にするのがロシア人だ。誰もが自分の誕生日を心待ちにし、誰かの誕生日を祝いたいと願う。ロシア海軍を取材した時、このことを改めて思い知らされた。

　極東ウラジオストク沖の金角湾を行くフリゲート艦に乗り込むと、通路には乗組員全員の氏名、役職、誕生日が掲げられている。「戦時でも同僚の誕生日を確実に祝うため」というのが広報官の説明だ。

　非常時ですら「あなたが生まれてきたことがうれしい」と伝えようとする素朴さに感銘を受けた。当時はロシア軍がウクライナで「特別軍事作戦」を始める前。でも今日のウクライナを思うと、金角湾で聞いたのは「いい話」ではなかった。

　ウクライナの説明では「軍事作戦」に巻き込まれて死んだ子どもたちは４００人近く。家にミサイルを撃ち込まれ、生後３カ月で亡くなった女児もいる。毎日、２、３人のペースで子どもが死ぬのは普通ではない。

　「身内」の誕生日を祝いながら、誰かの誕生日を奪うことに矛盾はないだろうか。ロシアの兵士よ、あなたにも家族がいるだろうに。　（小柳悠志）