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【岐阜】時空を超え“出会えた人” 細江光洋写真展 岐阜県美術館

ジャンル・エリア : 展示 | 岐阜 | 文化 | 芸術  2023年08月17日

木々に囲まれた岐阜県美術館

木々に囲まれた岐阜県美術館

 勝手に尊敬している作家の堀田あけみさんが、本紙朝刊への寄稿で書いていました。テレビで見たクイズ番組で、博物館や美術館に行ったことのある人のパーセンテージがとても低くて、心底驚いたと(7月16日付、要約)。

 博物館や美術館に行くと、心身がリラックスするという「博物館浴」が言われる今、もったいないですね。そこで私も出かけてきました。

 行き先は、岐阜市の岐阜県美術館。飛騨地方で活躍した故細江光洋さんの没後20年の写真展が開催中です。訪れた日の岐阜市内は、最高気温が何と39度を超えました。でも、美術館にはエアコンがありますし、飛騨の写真家の展覧会だけに雪景色の情景もきっとあり、目にも涼しく、リラックスできるでしょう。

 -と考えて展示室に入ればもちろん豪雪の場面もあるのですが、それより目を引いたものは、昭和の飛騨の風物とそこで暮らす人たちです。

 1920年高山市生まれの細江さんは、新聞記者を経て写真の勉強を始めます。後に新聞社を退社すると、高山で写真館を営みつつ飛騨の人と風景を撮影し続けました。

 その一つが、「戸数八戸の集落」と題した作品。白川村加須良地区の合掌造りの家を撮ったものですが、同地区は後に集団で離村。8戸のうち旧西岡家住宅は高山市にある「飛騨民俗村」に移築され、県の重要文化財となります。

 その貴重な家が、今はない集落にたたずむ往年の姿を、細江さんの労作は永遠に伝え続けるのですね。そう思うとリラックスどころか、背筋が伸びる気持ちになります。

 別の作品「村の分教所」も印象に強く残りました。今の鉄筋コンクリート造りの学校とは懸け離れた木造の校舎のそば、制服を着た生徒たちが踊っています。1952年の撮影ですから、ご健在の人もおいでかもしれません。

 このほか展示された作品は牛を引く子ども、子守をする老人、祭礼の群集、農作業の女性など。まだせいぜい60-70年ほど前の人なのに、その顔は今の日本人とは全く違って見えて、ちょうどあの黒澤明監督の歴史映画に登場する人物のような顔つきなのです。ああ日本は変わった、昭和は遠くなったなあ。

 時間も空間も超える小さな旅に連れて行かれた、そして今ではもう会えない日本人に出会った、そんな感慨すらも湧き起こる写真展でした。

 名画名作の前に人だかりができる人気の展覧会も楽しいものですが、こうした一見は地味な、でも充実した企画を探してご覧になるのもお勧めです。岐阜まで行かずとも、ぜひ近くの美術館や博物館を訪れてみてください。きっと新しい発見があるでしょう。 (三品信)

 ▼ガイド 岐阜県美術館((電)058・271・1313)は月曜休館です(祝日の場合は翌日)。JR岐阜駅からバスで15分ほどで、JR西岐阜駅からなら歩いて15分ほどです。「没後20年 細江光洋展」は9月3日まで開催中。観覧料は一般340円、大学生220円、高校生以下は無料です。また、別に観覧料が必要ですが、9月24日まで「こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界」展も開かれています。ご家族でお出かけされても楽しいと思います。

(中日新聞夕刊 2023年8月17日掲載)