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米トーランス トヨタは去るけれど

2017年09月08日

 名刺は片仮名書きだった。米カリフォルニア州ロサンゼルス近郊のトーランスを訪れ、パトリック・フュレ市長を取材した時のことだ。トヨタ自動車が約50年間、北米販売統括会社の本社を置き、多くの米系企業の拠点もある典型的な企業城下町。アジア人も多く「中国語、韓国語の名刺も持っているよ」と笑った。

 トヨタはテキサス州に北米の本社機能を集めた新社屋を完成させ、トーランスからも移転する。地元経済が受ける打撃は少なくない。「恨み節」でも聞ければ、というのが取材の目的だった。

 ところが、市長は「トヨタは芸術、教育など幅広く地域振興に関わってくれた」と感謝の言葉を口にし、跡地に入る企業探しについても「トーランスは企業に優しい街なのさ」と自信をみせた。

 私自身、トヨタの本拠地である愛知県豊田市、コンビナートが立ち並ぶ三重県四日市市での勤務経験があり、産業界の動向に左右される企業城下町の宿命を見てきた。企業の新陳代謝もまた、街の活性剤としなければならない-。市長の淡々とした受け答えから、こんな思いも伝わってきた。

 (東條仁史)