ジャンル・エリア : スポーツ | 山 | 滝 | 神社・仏閣 | 静岡 2019年10月17日
「あー、白内障ですね。まあ若白髪みたいなもんです」。最近、右目の視力が少し落ちたので、眼科で検査したところ、あっさりこう言われた。ちょ、ちょっと待ってくれ。まだ50前だ。白内障って老人がなるんじゃないのか。大した病気じゃないから若白髪とはうまいこと言うとか、そういう問題じゃない。
ということで4日、静岡県袋井市に行き、目の霊山として信仰される油山寺(ゆさんじ)で回復を祈願するとともに、たまたまこの日、エコパスタジアムで開催されるラグビーのワールドカップ(W杯)の南アフリカ対イタリア戦を、ついでに観戦することにした。遠州三山(さんざん)の残り2つ、可睡斎(かすいさい)と法多山(はったさん)にも行ってみよう。袋井を総ざらえすれば、何かいいことがあるんじゃないか。
袋井駅に着くと、雨はもう上がっていた。静岡県人が誇る超人気ハンバーグチェーン店「炭焼きレストランさわやか」でかなり早めの昼食を取り、まずは火防信仰の可睡斎へ。境内に入ると、少し赤く染まり始めた木々の緑がきれいで、静寂も心地いい。さい銭箱に100円玉を投げ入れ、素直に防火を祈った。
次が目当ての油山寺だ。奈良時代、眼病を患った孝謙天皇が境内の滝水で目を洗ったら治ったという、霊験あらたか、由緒正しき、とてもありがたい寺だ。ここで駄目なら仕方ない。いや、そんなこともないが、とりあえず全力でお願いしよう。
まず天皇の目を治したるりの滝を目指す。背の高い木々に覆われた小道を歩くと、清流のせせらぎや鳥、虫の鳴き声が聞こえてくる。いい寺だ。ただ、滝は思っていたより小さかった。ちょろちょろと落ちてくる感じだ。きっと今日は調子が悪いのだろう。それでも「目がよくなりますように」と祈願した。
寺の入り口近くまで戻り、祈とうした水を300円で、目のお守りを700円で買った。さらに、財布に残っていた50円玉をさい銭箱に入れた。ここまでして治らないはずがない。
最後に、厄除(やくよけ)観音の法多山を訪れ、長い参道と石段をぜえぜえ言いながら登って本堂でお参りした後、エコパへ。試合前から、日本人も外国人も楽しげにビールを飲み、気持ちよさそうにしゃべり、歌っている。これぞW杯。いい雰囲気だ。
自分の席に着いた。隣の初老男性は完全に出来上がっていた。「握手しまひょ、握手。僕はにわかなんっすよ。ラグビー、いおいろ教えてくあさい」。見事な酔っぱらいだ。試合が始まっても止まらない。「わわ、オーストリア強いっすねえ」「あれは南アフリカです」「ギリシャ駄目だねえ」「いや…」
うーん、遠州三山を制覇した御利益はどうなっているんだ。“さんざん”な日だ。いや、W杯が盛り上がるのは喜ばしい。酒好きのおとうさん、20日は日本対南アフリカです。共に戦いましょう。 (金森篤史)
▼ガイド 袋井観光の拠点となるのはJR東海道線・袋井駅。エコパスタジアムは隣の愛野駅から徒歩15分。可睡斎(電)0538(42)2121。油山寺(電)0538(42)3633。法多山(電)0538(43)3601
(中日新聞夕刊 2019年10月17日掲載)