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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

新緑の源泉パラダイス 福地温泉

新緑の源泉パラダイス 福地温泉

 例年より3週間余りも早い梅雨入り宣言、なかなか明けぬコロナ自粛生活、腐りそうな気持ちを晴らすべく、山里の新緑を楽しみに福地温泉行きを決めた。

 福地温泉は、じわじわと芯に沁みるように効いてくる湯質と、「昔ばなしの里」という表現がぴったりな雰囲気が大好きで何度も訪れているが、今回は数年前に雑誌の温泉特集で見てからずっと行きたかった草円さんにお世話になった。

 「山里のいおり」の名のイメージ通りのアプローチを抜けると、そこはすべてが草円ワールド。古い家屋の雰囲気はそのままに、丁寧に磨き上げられた立派な梁やステンドグラスにウットリ。母の懐にすっぽり抱かれるように落ち着く空間に、あぁやっぱり来て良かったと心底感じ入る。さらに、全15室のこじんまりとしたお宿にも関わらず、貸切風呂も含めて温泉は6か所もあるという。早く温泉に浸かりたい、お茶とお餅のおもてなしを受けながらも思わず前のめりになる。温泉好きの血が騒いで仕方がない。

 夕食前に2か所は制覇したい、と案内されたお部屋での寛ぐ時間もそこそこにまずは貸切風呂へ。温めと熱めの交互浴ができる内湯と、ひとりで入るには勿体ないようなたっぷりとした広さの露天風呂。縁に頭と足を乗せ体を湯の中に放つと、全身から要らない力がするすると抜けていく。肌当たりが丸くて優しいお湯が、日ごろの疲れを全部受け止めてくれるようだ。

 貸切風呂で移動の疲れが癒え始めたので、勢いに乗って岩湯へ。森の湯と名付けられた川沿いの温泉で、その名の通り森をくぐり抜けた先にある。いかにも大自然の中での湯浴みができそうな予感に道中からわくわく、そして期待以上にダイナミックな景色を愛でながら少し熱めのお湯に浸かると得も言われぬ幸福感に満たされる。ここに1週間居たら仏さまのような顔つきになれるんじゃなかろうか、そんな妄想が止まらない。

 温泉のハシゴでいい具合にお腹がすいてきたところで夕食の時間に。食事処に用意された炭火を囲む五平餅とアマゴの塩焼きが一気に奥飛騨気分を盛り上げてくれる。そう、奥飛騨といえばこれこれ、これがなくっちゃ。ニマニマしながら丁寧に作られた美しい山里懐石を有難くお腹におさめていく。そして最後の締めはおくどさんで炊かれた飛騨産の有機米。お塩だけで頬張りたくなるような美味しさに、お米文化の素晴らしさを痛感する。

 食事のあとも、メインの大浴場を制覇すべく入泉活動を再開。柔らかなお湯に要らぬ緊張を解いてもらった心地よさと、繰り返しお湯に浸かった程よい疲労感で早々に床に就いた。

 早寝と、残り1か所の温泉への期待で早々に目覚めた翌朝は、再度森の湯へと向かう。昨夕に入った岩湯のお隣にある釜の湯は、やはり間近に見える川を楽しみつつ頭上に生い茂る樹々の新緑、そして早朝の朝陽がさらにヘヴン感を高めてくれる。温泉好きのための地上の楽園ではないか、ここは。キラキラとお湯に反射する朝陽で、夜とは雰囲気が一新した大浴場も存分に楽しみ、草円さんでの入泉活動は大満足のうちに終了した。あぁ、十年来憧れた気持ちは間違ってなかった、リピート決定である。

 つきたてのお餅や朴葉味噌の美味しい朝ごはんをたらふくいただき、宿の方の穏やかな声に見送られたら、「また来ます、絶対に」と口から自然と言葉がこぼれた。

 楽しい旅が終わったときの失望感は大きくなりがち、でもまた訪れたいと思える場所がひとつ増えた、と思えばその楽しみに向けてまた頑張れる。そんな前向きな奮起剤になってくれる宿だった。

【福地温泉 山里のいおり草円】
住所: 高山市奥飛騨温泉郷福地温泉831
電話: 0578-89-1116
URL: https://www.soene.com/
アクセス: 大阪・京都方面から東海北陸道 飛騨清見インター経由、中央縦貫道 高山インターより約60分
泉質: 単純温泉
温度・PH値: 63.5℃・7.0
色・味・匂い: 無色透明、ほのかな硫黄臭
効能: 筋肉や関節の慢性的な痛みやこわばりの緩和、冷え性・胃腸機能低下の改善、ストレス緩和、自律神経不安定症・不眠症・うつ状態の改善、など

2021年06月20日

コラムフォト

取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!