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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

金沢の奥座敷 犀川温泉

金沢の奥座敷 犀川温泉

 緊急事態宣言、時短影響、外出自粛、コロナ禍で今冬の動きを制限するキーワードが世の中を多々賑わせたが、冬の寒さが緩むと同時に旅に出たい欲がムクムク湧いてきた。

 そうだ、温泉に入らねば。温泉と美味しいものが私を呼んでいる。と緊急事態宣言解除と共にそわそわと決めた旅先は大人旅にぴったりの金沢、犀川温泉。コロナ禍の影響で多くの宿で空きが目立つ中、ほぼ満室かつ、大手予約サイトで最高ランクの口コミ。否応なしに期待が高まる。

 金沢市内から車で20分ほど、市街の喧騒から離れたまるで陸の孤島のような静かな場所に滝亭はある。駐車場まで番頭さんが手厚く出迎えに来てくれ、通されたロビーの空間の贅沢さに目を瞠った。滝亭の名前の由来である滝が見える中庭に面したロビーで、おうすと小菓子をゆったりといただきながらチェックイン。

 今回は予約時に最後の一部屋だった特別室を予約していたが、そのお部屋に通されて想像以上の贅を尽くした設えに、日ごろの自粛生活も吹き飛ぶ気分になった。広いリビング付きのベッドルームに加え、外の景色を眺めながら寛げるテラスルームまである。目の前に滝が見える部屋付きの半露天風呂も魅力的だが、まずは本丸を攻めるべく夕食前に大浴場まで急ぐ。

 屋根の梁にいい具合の年季を感じる広い内湯にとぷんと身を浸けると、無色透明で柔らかな湯あたりのお湯が長時間のドライブで強張った体を解いていく。思わず、ほうっと溜め息がもれた。体が温まってきたところで目の前が滝の露天風呂へ。滝が流れ落ちる様子を頭を空っぽにして眺めながら入る温泉、これ以上ないほどのマインドフルネス、至福の極みだ。

 入浴後は部屋のテラスでビールを開けて、徐々に暮れなずむ庭の様子を眺めながら夕食の時間へと気持ちを高めていく。ただその空間や空気感を楽しむだけの時間、日常からかけ離れた時間の使い方にさらに心地よく酔いが回っていく。

 夕食は立派な雪吊りの松が見えるお庭が見える、専用の個室へと案内してもらう。

 目にも美しい八寸から始まり、山菜や筍、蛍烏賊や鰆など日本海の春を感じる食材豊富なお料理の数々に金沢のお酒、手取川がぐいぐいすすむ。夕食のクライマックスには、普段なかなかお目にかかれないのどぐろの塩焼きに能登牛のしゃぶしゃぶが供され、海と陸のご馳走にお腹も気持ちもはち切れんばかりに、でもこんな贅沢なかなかできないと自分に言い聞かせキレイに平らげた。

 酔い覚ましに部屋の露天風呂に浸かり、満腹感と満足感でベッドに倒れこんだら最後、朝まで記憶がないほど深い眠りについた。

 翌朝、朝食に向けさらに空腹感を増すべく、部屋風呂と大浴場、足湯までフルコースで堪能してから朝ごはんへ。

 玉手箱のようなお重に入ったたくさんのお惣菜やのどぐろの一夜干しで、金沢産のピカピカに炊かれたコシヒカリがどんどん進む。こんなに丁寧な朝ごはんで一日が始められるってなんて幸せなんだ、日本旅館の良さを改めて痛感する。

 宿の手厚い見送りに心温まりながら、旅の締めくくりは緑のグラデーションが目にも優しい兼六園へ。あちらこちらに椿や梅が彩を加える園内を散策しながら、十数年前に来たときよりさらに金沢を愉しめている「大人」になった自分を感じた。

【犀川温泉 川端の湯宿 滝亭】
住所: 石川県金沢市末町23-10
電話: 076-229-1122
URL: https://takitei.co.jp/
アクセス: (車)大阪・京都方面から名神経由、北陸自動車道 金沢西インターより約40分
泉質: ナトリウム塩化物・炭酸水素塩泉(低張性弱アルカリ性低温泉)
温度・PH値: 47℃・8.3弱
色・味・匂い: 無色透明、無臭
効能: アトピー・湿疹、美肌効果、婦人病、リウマチ、切り傷、消化器疾患

2021年04月13日

コラムフォト

取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!